なぜ「AYUING(アユイング)」はダイワの登録商標なのか? 鮎ルアーの歴史から考えてみた

HOW TO

先日、今さらながら「AYUING(アユイング)」がダイワを展開するグローブライド株式会社の登録商標であることを知りました。

正直、最初の感想は、

「え? アユイングって登録商標なの?」

でした。

ダイワHPより

エギング、アジング、チニング。

釣りの世界では「対象魚+ing」のような言葉が、釣法名として普通に使われています。

その感覚からすると、

AYU+ING=アユイング

も、鮎をルアーで狙う釣りを表す言葉としてごく自然に見えます。

気になって鮎ルアーの歴史だけでなく、特許庁に提出された意見書や審判請求書まで読んでみました。

すると私は、商標登録そのもの以上に、登録に至るまでの経緯に強い違和感を覚えました。

なお、この記事はAYUINGの商標登録が違法・無効だと主張するものではありません。

一人の釣り人として、

「業界最大手が、釣法名になり得る言葉をここまでして商標登録する必要があったのか?」

を考えてみます。

鮎ルアーはAYUING以前から存在していた

鮎をルアーで狙う釣り自体は、AYUING以前から存在しています。

そしてダイワ自身も、その当事者でした。

Web上には2008年の時点で、ダイワの「速攻友ルアー」に言及した記録が残っています。

友鮎ルアーの秘話 - アウトドア小僧だぁ!:楽天ブログ
昨年(2007年)、kozo友鮎ルアーを思い切ってネット販売するにあたり、苦労したのが「サカサ針ホルダー」の開発だった。6月上旬ころだからあれから1年が経過した。一般的なサクラマスやシーバスミノーには付い

その後もダイワは「友ルアーF」などを販売しています。

ダイワHPより

また、現在のアユイングに近い「ルアーロッド+リール+ルアー」というスタイルも以前から試みられていました。

2017年には、多摩川でシーバスロッドとダイワの友ルアーを使って鮎を狙った釣行記も残っています。

鮎ルアーかフライで多摩川の鮎の最初の1尾を釣るまでを記録
囮ルアー+バスロッド、または、フライフィッシングスタイルで、鮎を釣ってやろうと、意気揚々と、鮎釣りを含めた多摩川の年券を購入した私の、鮎の最初の1尾を釣るまでをこのページで記録しておこうと思います。

カツイチやパームスは、まさに鮎ルアーを広めようとしていた

現在につながる鮎ルアーを積極的に普及させていたメーカーの一つがカツイチです。

カツイチは2012年に「REAYU」をスタート。

製品販売だけでなく、漁協と協力した講習会など、鮎ルアーを楽しめるフィールドを増やす活動も続けていました。

リアユ10周年 | 株式会社カツイチ
ビッグワームのバランスを安定させるウェイトモデル

パームスも早くからリールを使った鮎ルアーに取り組んでいます。

飯田重祐氏は2020年の記事で「2020年は鮎ルアー3シーズン目」としており、2018年頃には取り組みを開始。2019年には鮎ルアー「エスケード」を発売しています。

友釣り用ルアー Vol.3 - BLOG | Angler's Republic

さらに2019年8月には、滋賀県の愛知川で「鮎ルアー体験会」が開催されました。

主催は愛知川漁業協同組合。後援にはカツイチ、パームス、モーリス、クリアウォータープロジェクト、ガンクラフトなどが名を連ねています。

「鮎ルアー体験会」滋賀県愛知川で近年注目の釣りスタイルを体験
関西の釣具店員を対象に実施した「鮎ルアー体験会」  8月27日(火)に滋賀県愛知川にて「鮎ルアー体験会」を実施いたしました。  主催は愛知川漁業協同組合。後援はカツイチ、パームス、モーリス、クリアウォータープロジェクト、ガンクラフト。 アユ...
鮎ルアー釣り体験会in愛知川 | 釣り具販売、つり具のブンブン
カツイチさん、パームスさん、モーリスさんの三社合同の鮎のルアー釣り体験会に参加してきました。

つまりAYUINGが出願される直前は、

鮎のリール・ルアー釣りはまだマイナーながら、複数メーカーや漁協が「これから広げよう」と動いていた時期

だったわけです。

2020年、「AYUING」が商標出願される

グローブライドが「AYUING」を商標出願したのは2020年6月5日。

しかし特許庁は2020年11月、拒絶理由を通知しました。

簡単にまとめると、

  • 「AYU」は鮎を意味する
  • 釣り業界では魚介類の名称+「ING」で釣法を表す例がある
  • 鮎をルアーで釣ることも既に行われている

ことから、

AYUINGは「鮎をターゲットとするルアー釣り」を意味すると理解されるのではないか

という判断です。

グローブライドは2020年12月25日に意見書を提出しましたが、2021年3月には拒絶査定。

そこで終わらず、同年6月7日に拒絶査定不服審判を請求しました。

審判請求書を読んで感じた違和感

この審判請求書が非常に興味深い内容でした。

グローブライドはAYUINGについて、

「全体として、明確な特定の意味を生じない一つの造語」

と主張。さらに、

「『鮎をターゲットとするルアー釣り』であるとの認識を取引の需要家に生じさせることはありません」

としています。

その背景として、鮎のルアー釣りはまだマイナーであることにも言及しています。

確かに当時の鮎ルアーはマイナーだったでしょう。

ただ、先ほど紹介したように、カツイチやパームスなどは既に製品を投入し、2019年には漁協を交えた体験会まで開催しています。

カツイチHPより

マイナーではある。しかし、まさに業界内で普及させようとしていた釣りでもあった。

この実態を踏まえると、「マイナーだからAYUINGから鮎のルアー釣りは認識されない」という説明には疑問が残ります。

「意味は伝わるように作った。でも、その意味は認識されない?」

さらに審判請求書では、AYUINGの命名理由についても説明しています。

要約すると、

対象魚が鮎であることを分かりやすく伝えるため「鮎」を一番に配置し、ルアーロッドで投げたり巻いたりする「動」の釣りを「ING」で表現した。

それを組み合わせてAYUINGを考案した、という説明です。

私はここが一番不思議でした。

鮎であることを分かりやすく伝える「AYU」

動的な釣りを表現する「ING」
=AYUING

と説明する一方で、

AYUINGから「鮎をターゲットとするルアー釣り」を認識するのは論理の飛躍

と主張しています。

法律上の評価は別として、一般の釣り人として読むと、

「意味が伝わるように作ったのに、その意味は伝わらない」という説明になっていないか?

という疑問を感じます。

「すずきんぐ/SUZUKING」と同じなのか?

審判請求書では、過去に第28類「釣り具」で登録された、

「すずきんぐ/SUZUKING」

という商標も例に挙げています。

魚介類の名称+INGという構造を持つSUZUKINGが登録されている以上、AYUINGを別扱いする合理性はない、という趣旨です。

しかし「SUZUKING」を見て、

「スズキをルアーで狙う釣法の名称」

と一般の釣り人が認識するでしょうか。

少なくともスズキのルアー釣りは一般に「シーバスフィッシング」などと呼ばれ、「スズキング」という釣法名が広く使われているわけではありません。

一方のAYUINGは、グローブライド自身が「鮎であることを分かりやすくするAYU」と「動の釣りを表現するING」を組み合わせたと説明しています。

私には、この二つを同列に扱うのは少し無理があるように感じます。

特許庁への説明と、実際のダイワ側の発信

そして最も気になったのが、審判中の出来事です。

グローブライドが拒絶査定不服審判を請求したのは、

2021年6月7日。

この書面で、

「AYUINGから『鮎をターゲットとするルアー釣り』との認識は生じない」

と主張しています。

ところが、その約2か月後。

2021年7月31日、グローブライド勤務・DAIWAアングラーとプロフィールに記載する宮澤幸則氏は、自身のブログで、

「鮎のルアーフィッシング!【アユイング】です!」

と発信しています。

もちろん、宮澤氏個人の発信と会社が提出した審判請求書は別物ですし、宮澤氏が商標手続きに関与していたとも限りません。

それでも外から見ると、

特許庁には
「AYUINGから鮎のルアー釣りとの認識は生じない」

一方、釣り人には、

「鮎のルアーフィッシング!【アユイング】です!」

と、ほぼ同じ時期に説明していたことになります。

これは本当に整合しているのでしょうか。

少なくとも私には、商標登録を求める際の説明と、実際に釣り人へ向けたAYUINGの使い方に矛盾があるように見えます。

現在ではダイワ公式サイトでも、アユイングを「新しいゲームフィッシング」と明確に説明しています。

追わせて掛ける アユイング|DAIWA
ダイワのアユイングは、オトリアユに見立てたアユ型ルアーを使い、アユを追わせて掛ける新しいゲームフィッシング。誰もが手軽に、そして身軽にゲーム性の高いアユ釣りを楽しむことができる新提案メソッドです。

結果だけを見れば、最初に「AYUING=鮎をターゲットとするルアー釣り」と判断した特許庁の見方は、その後の実際の使われ方とよく一致しています。

それでも一社の商標にする必要があったのか

商標を出願したこと自体は理解できます。

この件をXで話した際、知的財産に詳しい方から、

「無関係な第三者にAYUINGを先に取られるリスクを防ぐ意味もあるのでは」

という意見をいただきました。確かに、それは企業として考えるべきリスクでしょう。

ただ、今回は特許庁が一度、

「AYUINGは鮎のルアー釣りを意味する」

という方向で拒絶しています。

それでもグローブライドは審判請求まで行い、最終的にAYUINGは登録商標となりました。

ここで私が考えてしまうのは、やはり当時の状況です。

カツイチやパームスなどが、まだマイナーだった鮎のリール・ルアー釣りを広めようとしていた。

漁協も巻き込んで、新しい釣り文化を育てようとしていた。

その真っ最中に、誰もが「鮎+ING」を連想し得るAYUINGを、業界最大手が一社の商標として取得する。

法的に登録可能だったとしても、それが業界にとって一番良い選択だったのか。

私はそこに疑問を感じます。

ダイワだからこそガッカリ

私は基本的にシマノ派ですが、ダイワが嫌いなわけではありません。

アユイングロッドはダイワ製を使っていますし、友船もダイワ製です。

そして現在の鮎ルアー人気に、ダイワが果たした役割が大きいことも間違いないと思います。

だからこそ、今回の経緯には正直ガッカリしました。

もちろん、カツイチやパームス自身がAYUING商標についてどう感じているのかは分かりません。案外、何とも思っていないのかもしれません(笑)。

それでも私は、

「それまで鮎ルアーを育ててきた他社へのリスペクトはあったのだろうか?」

と思ってしまいます。

法律上取得できる権利を取得することと、それが業界最大手として格好いい振る舞いかどうかは別の話です。

自社ブランドを作り、それを商標として守る。

一方で「アユイング」のような釣法名は、メーカーを問わず使える言葉として残す。

そんな選択もできたのではないでしょうか。

「この釣りを広げる。でも、この釣りの名前はみんなで使える。」

私は、その方がずっと格好良かったと思います。


参考資料

カツイチ「REAYU 10周年」
https://www.katsuichi.co.jp/special/reayu10th

パームス・飯田重祐氏「鮎ルアー」
https://www.palmsjapan.com/blog/2020/05/vol3.php

釣具新聞「鮎ルアー体験会」
https://tsurigu-np.jp/news/492/

つり具のブンブン「鮎ルアー体験会」
https://bunbun-fishing.com/fishing/68656/

2008年・ダイワ「速攻友ルアー」への言及
https://plaza.rakuten.co.jp/41kozo/diary/200806170000/

2017年・多摩川でダイワ友ルアーを使用した釣行記
https://www.omoidenotsuri.com/ayu/tama-ayu1bi

DAIWA「AYUING」公式ページ
https://www.daiwa.com/jp/special/features/ayuing/

J-PlatPat 特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

「AYUING」または「商願2020-69722」で検索すると、拒絶理由通知、意見書、拒絶査定、審判請求書などを確認できます。

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